
若手エンジニアのAI不安を小さくする3つの手順
新しい AI の道具が毎週のように発表されて、自分の力がついていけるのか不安になっていませんか?
これは、若手エンジニアによくある悩みです。AI に加えてクラウドやセキュリティ、データの扱いと、覚えることは増える一方です。このままで大丈夫なのか、何から手を付ければいいのか分からない。そんな不安を持つ人は少なくないと思います。
自分のことですが、私も同じように悩んだことがあります。IT の技術は幅が広く、進歩も速いので、ついていけないと感じていました。当時はどうすればいいか分からず、悶々とした時期もありました。
この記事では、そこから私がたどり着いた考え方を、原因を書き出す・安心できる条件を決める・小さく試す、の3つの手順にまとめます。先に書いておくと、これは私の意見です。人それぞれなので、1つの参考として読んでいただければと思います。
全体像:若手エンジニアの不安と、AI と仕事の見通し
まず、不安の背景を整理します。
不安が大きくなる3つの理由
私は、理由は大きく3つあると考えています。
1つ目は、変化の速さと分野の広さです。冒頭で書いたとおり、AI に限らず、エンジニアに求められる分野は広がり続けています。全部を追いかけようとすると、どれだけ時間があっても足りません。
2つ目は、人との比較です。SNS には、新しい道具を使いこなす人の投稿が毎日のように流れてきます。その人たちと比べると、自分だけが取り残されているように感じてしまいます。
3つ目は、何をすればいいのかが見えないことです。転職市場のデータを分析している方の動画では、こうした状態を「AI迷子」と呼んでいました。メディアは AI の話題ばかりなのに、自分の職場はそうでもない。何をやればいいか分からない、という漠然とした不安です(動画)。
AI で仕事はどうなるのか、見方は割れている
では、AI で仕事は本当になくなるのでしょうか。これについては、見方がはっきり割れています。
厳しい見方では、経営者の冨山和彦さんが、経済合理性だけで考えればデスクワークの7〜8割は10年以内に要らなくなる、と話しています(動画)。AI の安全性を研究する Roman Yampolskiy さんは、さらに極端で、5年ほどで失業率が99%に達しうると予測しています。ただし本人も、技術ができることと実際に広まることは別だ、と話しています(動画)。
一方で、歴史上の技術革命で仕事の総量が減った例は無く、中身が移り変わってきた、という見方もあります。AI で作業が速くなっても、人は求める基準を上げ続けるので、暇にはならない、という話です(動画)。
どちらが正しいかは、まだ誰にも分かりません。ただ、こうして意見が割れていること自体が、不安を大きくしているように思います。
それでも効くのは「分野の中身」
少し安心できる話もあります。Anthropic(Claude を作っている会社)は、AI の道具 Claude Code の約40万回の利用を分析したレポートを出しています。それによると、扱う分野の知識が深い人ほど作業の成功率は高く、初心者の15%に対して中級以上では28〜33%でした。伸びの大半は、初心者から中級者になる段階で起きています(レポート・解説動画)。トップの専門家にならなくても、自分の分野で初心者を抜け出すだけで効く、と読めます。
また、越川慎司さんが815社・17万人を分析した結果を話した動画では、AI を使いこなしていることと成果の間に、相関は見られなかったそうです。一方で、AI を使っていない人たちは伸び悩んでいる、という傾向にも触れていました(動画)。
この2つの話から私が考えるのは、新しい道具を全部追いかけなくてもよい、ということです。自分の分野の中身を深めながら、AI を道具として使う。この方向で考えると、全部を追いかける焦りも、少し和らぐのではないでしょうか。
いまの問題:ぼんやりした不安には、手が打てない
とはいえ、背景が分かっても、不安そのものは消えません。なぜなら、不安がぼんやりしたままだと、何をすればいいかが決まらないからです。
仕事でも、「ちゃんとやって」「早めに」と言われたら困りますよね。何をどこまでやればいいのか、基準が無いからです。ロジカルシンキングの動画では、こうした曖昧な言葉を合図に、考えるモードに切り替えることを勧めていました(動画)。
不安も同じです。「ついていけない気がする」のままでは、手の打ちようがありません。そこで私が勧めたいのは、次の3つの手順です。
私の3つの手順
1. 不安の原因を書き出して、見えるようにする
最初の手順は、何が不安なのかを、紙やメモに書き出すことです。
頭の中だけで考えていると、同じ悩みがぐるぐると回り続けます。私は本を読み始めて、最近ようやく気づきました。書いて見えるようにすると、悩みが頭の中で回らなくなるのです。書き出してみると、自分にできること、やりたいことも見えてきました。
書き出す前のコツは、いきなり「なぜ不安なのか」と問わず、まず「どこが不安なのか」と問うことです。「なぜ」から入ると、人はもっともらしい理由を後から作ってしまいがちです。「どこが」と問うと、具体的な場面や物に目が向きます(記事)。材料が集まったら、次に理由を並べます。
理由を並べるときに役立つのが、認知行動療法の入門書『悩み・不安・怒りを小さくするレッスン』(中島美鈴)で紹介されていた「理由分析グラフ」です。考えられる理由を全部書き出して、合計が100%になるように割合を振ります。数字は感覚でかまいません(本の要約動画)。なお、認知行動療法は、医療や心理の専門家が行う心理療法でもあります。この記事では治療としてではなく、考えを整理する道具の1つとして借りています。
たとえば「AI についていけない」という不安なら、次のようになります。
| 不安の理由 | 割合(感覚) |
|---|---|
| 何を学べばいいか、順番が決まっていない | 40% |
| SNS で見る、使いこなしている人と比べている | 25% |
| 今の仕事で、AI をまだほとんど使っていない | 20% |
| 本当に仕事がなくなるかもしれない | 15% |
こうして並べると、自分で変えられる理由が意外と多いことに気づくかもしれません。「仕事がなくなる」は自分では変えにくいですが、「学ぶ順番」や「比べる相手」は、自分で変えられます。
2. どうなれば安心・満足できるかを決める(不安解消条件)
2つ目の手順が、この記事でいちばん伝えたいことです。それは、自分がどうなれば安心できるか、満足できるかを、言葉にして決めることです。私はこれを「不安解消条件」と呼んでいます。
不安は「どうなればいいのか」が決まっていないと、どこまで頑張っても消えにくい、と私は考えています。ゴールの無いマラソンのようなものです。私自身、安心できる所・満足できる所を言葉にしてみて、ようやく不安が小さくなりました。
条件を決めるときは、次の3つを意識すると決めやすくなります。
- 全部ではなく、選ぶ。『エッセンシャル思考』(グレッグ・マキューン)は、何かを選ぶことは何かを捨てることだ、と説いています。全部の分野を追う、を前提から外します(本の要約動画)
- 得意・大事・好きを掛け合わせる。『世界一やさしい「やりたいこと」の見つけ方』(八木仁平)では、得意なこと・大事にしたいこと・好きなことの3つを掛け合わせて、方向を決めます(本の要約動画)
- 調子の悪い日を基準にする。『人生をガラリと変える「帰宅後ルーティン」』(リュ・ハンビン)では、自分に合う仕事を、調子が悪い日でもやれるかで見分けます。私はこれを条件づくりにも使い、調子が悪い日でも続けられるかで決めます(本の要約動画)
たとえば、先ほどの不安なら、条件は次のように書けます。
- 半年後、AI が書いた担当分野のコードを、レビューで自分の言葉で説明できる
- 得意で、好きでもある分野を1つ決めて、そこだけは AI 任せにせず深める
- 新しい道具は全部追わない。月に1つ、今の仕事で使う物だけ試す
- 調子が悪い週でも、30分は続けられる量にする
ポイントは、他の人の基準ではなく、自分が納得できる基準にすることです。
3. できることを書き出して、小さく試す
3つ目の手順は、条件に近づく方法を書き出して、できることから試すことです。
ここで大事なのは、最初の一歩をとても小さくすることです。『エフォートレス思考』(グレッグ・マキューン)では、最初の一歩を「1行目を書く」ではなく「Word を開く」に置くことを勧めていました(本の要約動画)。
AI を使った学び方にも、ヒントがあります。参考書を AI と一緒に20周した方の動画では、「AI に質問する人」ではなく「AI から質問される人」になることを勧めていました。自分が先に説明して、AI には間違いと抜けだけを指摘してもらう。これなら、AI に頼りながらも、自分の頭で考える力を育てられると思います(動画)。
逆に、考えることまで AI に渡してしまうと、あとで困ります。要件の整理から実装まで AI に任せたら、自分が説明する番になって、中身を理解できていなかった、という体験談もあります(記事)。道具は AI に任せても、考えることだけは自分に残しておきたいところです。
そして、1回うまくいかなくても、すぐにやめないことです。1回の結果ではなく、何回か試してから判断します。試した結果で、手順2の条件を見直してもかまいません。
私の場合:見る本数を決めて、AI で何ができるかが見えた
ここで、私自身の例を書いておきます。
昨年の終わり頃、私は AI についていけないと悩んでいました。今思えば、AI で何ができるようになるのかが分からなかったのです。分からないから、不安に感じていました。
そこで年明けから、AI の YouTube を平日は1日5本、休日は10本見る、と決めました。3か月ほど続けると、AI で何ができるのかがだんだんと分かってきて、不安が解消されていきました。今振り返ると、私にとっての不安解消条件は「AI で何ができるようになるのかを知ること」で、見る本数を決めたのが、小さく試す行動でした。
3月からは Mac を買い、慣れてきたところで、ゲーム開発や動画作り、ブログを始めました。やってみることで学んだことが増え、ある程度であれば、突っ込んだ話もできるようになりました。実際に動かしてみることで、まわりの人より少しだけ詳しくなれた。これが、次の安心材料になりました。
もちろん、込み入った技術の話はまだできませんし、最新に追いつけているかと聞かれると、不安もあります。それでも、目標を決めて取り組むことで、だいぶ成長できたと感じています。
書き出しシート
3つの手順を、そのまま使えるシートにしました。紙でもメモアプリでもかまいません。
| 項目 | 書くこと | 例 |
|---|---|---|
| 不安 | 何が不安か、1行で | AI についていけるか不安 |
| 原因と割合 | どこが不安かを集めてから、理由を全部。合計100% | 学ぶ順番が無い 40%・人との比較 25%…… |
| 不安解消条件 | どうなれば安心・満足できるか | 半年後、AI が書いた担当分野のコードを、レビューで説明できる |
| 今週やる1つ | ファイルを開くくらい小さく | 担当の機能のファイルを開き、AI に書かせた関数を1つだけ説明してみる |
まとめ:不安が来たら、紙1枚に書き出す
AI についていけるかという不安は、AI が進化する限り、何度でもやってきます。だからこそ、不安が来たときに使える自分なりの手順を持っておくことが、いちばんの備えになると私は考えています。
最後に、私のポリシーを書いておきます。それは「悩むぐらいなら動け!」です。
もし1つだけ試すとしたら、今日、自分の不安を紙1枚に書き出してみてください。理由を並べて割合を振るだけで、頭の中で回っていた悩みが、少し外に出ていくはずです。
なお、これは私の経験からの意見で、医療の助言ではありません。眠れない日が続く、仕事や生活に手が付かない、といった状態なら、1人で抱えずに専門家を頼ってください。職場の産業医や相談窓口、心療内科などの医療機関のほか、厚生労働省の働く人向けの相談サイト「こころの耳」もあります。